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2024/03/29 17:36 |
久しぶりに本のお話
今回は珍しく、本格推理系には手を出さず、ちょっと硬派(・・・なんだろうか)な作品を読んでみました。

まずは
『氷壁』 井上靖 (新潮文庫)

今更なぜ井上靖なのか、自分でも分かりませんが、先日買ったまま読まずに放置していたので手に取りました。
タイトルどおり、山岳小説です。

主人公の魚津は、会社員として日常を送る一方で、若手の登山家としても活動する人物。
学生時代からの友人小坂と冬の穂高登頂を目指します。
しかし、切れるはずのないナイロンザイルが切れ、魚津の目の前で小坂は転落死。

原因はザイルの欠陥なのか、それとも技術的なミスか、あるいは魚津が切ったのか・・・?
あらゆる可能性に、マスコミも興味本位の憶測記事を書き連ねます。

しかし穂高登攀の前から、実は小坂は美那子という人妻に恋慕しており、叶わぬ恋に心をもてあましていました。
美那子は、それゆえ自分のせいで小坂が自殺したのではないかとおののきます。
魚津は、美那子の言葉によって、初めて小坂の自殺の可能性を示唆されますが、登山家である小坂が自殺などという、山を汚すような行為を行うはずはない、ザイルはその欠陥によって切れたのだと主張。

そんな魚津の言葉に、美那子は、魚津が自分の立場を慮って、小坂の自殺を否定しているのだと考え(美那子の一方的な思い込みですが)、魚津に複雑な恋情めいたものを感じ始めます。
魚津も、美那子に何も感じていないとのポーズをとりながらも、内心惹かれていく自分を意識し始めます。

そんな折、魚津は小坂の妹かおるから求婚されます。
魚津は、美那子への恋情を秘めながらも、かおると自分は結婚しなければならないという使命感に似たものを感じ、かおるとの人生を始める踏ん切りをつけるため、また、かおるとの結婚を小坂に知らせるため、再度小坂の命を奪った穂高への単独行に赴きます

しかし魚津は落石に遭遇し、後退か前進かの選択を余儀なくされてしまうのです。
後退は美那子を、前進はかおるを意味しています。
魚津の運命はどうなるのか。
また、ザイルの謎は?

という、山を中心に、男女の複雑な心理、また男の友情などが絡み合い展開していく、なかなか読み応えのある小説でした。
井上靖さんの小説は、それほど数は読んでいないのですが、ドラマチックな展開が多く、いつも途中で止められず、一気に読んでしまいます
ただ、もちろん好みの問題ですが、『氷壁』よりは、『あすなろ物語』とか『敦煌』とかの方が面白かったかな??←読んだのがあまりに前で、詳細は全く記憶していませんが・・・

山岳小説といえば、『国家の品格』で一躍時の人となった、藤原正彦さんのお父上である、新田次郎『孤高の人』(新潮文庫)も名作ですね~。
最初は、「地味そうだし、どうかな・・・・」と思って読み始めたのですが、上下巻があっという間で、「地味」なんていう印象を抱いた事が申し訳なかったことを覚えています(笑)

そういや私の知り合いに、この小説を「臨場感をもちながら読みたいと思って」という理由で、真冬に窓を全開にして読みふけり、ひどい風邪を引いたというヘンな人がいました・・・・Σ(゜д゜|||)
そんなフリークを生み出してしまうくらいに、『孤高の人』はオススメです(笑)

しかし、同じ山岳小説でも、『八甲田山死の彷徨』には、さすがに手が伸びませんでした。
モデルになってる事件を考えれば、重いの分かってるもんな・・・・。
というわけで、新田次郎は後にも先にも『孤高の人』しか読んでません(;´д⊂)


次は
『カーテンコール』 黒井千次(講談社文庫)

黒井千次氏は、文壇の重鎮で、芥川賞の審査員なども務めておられる方です。
といっても、小説をキチンと読んだのは今回が初めてです・・・(⊃д⊂)

これは、読売文学賞受賞作という点に惹かれて手に取りました。
最近まであまり意識していなかったのですが、ある方の「読売文学賞って、大物が受賞するような、すごい権威を感じますよね」という言葉に、「おぉそういえば確かに」と思い、注目するようになりました。

そしてその言葉どおり、読売文学賞の受賞者は、錚々たる面々です。
昔の受賞者のほとんどが、文学史上に名を残している人ばかりですし、ここ20年でも、筒井康隆津島佑子(太宰治の娘ですね)、大江健三郎司馬遼太郎村上龍といった、ビッグネームばかりです。

最近では、『嵐が丘』を日本に移植したようなドラマチックな小説である、『本格小説』(水村美苗)や、映画化などでも話題となった『博士の愛した数式』(小川洋子)が受賞しています。

とまあ、手堅い文学作品に贈られるのが、この読売文学賞なわけですね。ミステリでいう、日本推理作家協会賞でしょうか。

で、『カーテンコール』ですが。
珍しく新劇界を舞台にした作品です。
主人公は、劇作家の中年男性と、彼の作品に主演する新進女優。
マナコという役を通して、作家と女優が結び付けられ、とうとう不倫の仲になってしまいます。

構成自体も考え抜かれていますし、作品を生み出す苦悩の描写なんかは、作者自身の実体験に基づいているんだろうな、というすごい説得力もあります。
また、ストーリーも収束点が予想できるにも拘わらず、グイグイ引っ張られるように読み進めさせられてしまう辺り、やはりさすがって感じなのですが。
一言。
「こんな愛人として都合がよい上に可愛い20代女性なんて、いません」

天下の黒井千次先生に、神をも恐れぬ暴言を吐いてしまいましたが・・・・・((((゜Д゜;))))
『失楽園』(渡辺淳一)のヒロインに抱いたのと、まったく同じ印象を持ってしまいました(笑)
女性の側から言えば、感情移入しにくいヒロインだと思います。
オジサマ達に向けた、一種のファンタジー小説・・・・!?
但し、『カーテンコール』は『失楽園』のような、ほとんどポルノ小説じゃん?という内容ではありませんので、念のため。


今日の締めは
『行きずりの街』 志水辰夫(新潮文庫)

初・志水辰夫。
そして久しぶりのハードボイルドです(笑)

しかし、読むたびに思うのですが、ハードボイルドってすごい展開ですよね・・・・。
男のロマンが凝縮されているのでしょうか・・・。
この本だって、主人公は塾講師ですよ??

ハードボイルドする塾講師Σ(゜д゜|||)
しかも国語科らしい・・・・

志水辰夫さんの小説は、主人公がデブハゲ男だったりして、およそハードボイルドらしからぬ展開である事も多いようなのですが、この本は王道でした!

些細な事から、面倒ごとに巻き込まれる主人公。
しかし使命感と、真実を知りたいという思いから、次第に事件の深部へと入り込んでいきます。

次第に明らかになる闇の組織と、その陰謀。

お約束どおり、人質を取られ、自らも囚われの身になり、殺されかける主人公。
しかし、「おいおいおいおい、そんなことしたら危ないってばッΣ(゜д゜|||)」という読者の心配をよそに、大胆な作戦で九死に一生を得ます(笑)

そして幾多の困難を乗り越え、過去をも見事に清算し、主人公は新たな人生のスタートを歩むのでした。

あらすじを書くと、「おい」って感じですが、かなり面白いです。
もともとハードボイルドってある程度は、前にご紹介したハーレクインと同じで、大枠において踏襲しておかなくてはならないお約束っていうのがありますから、それを踏み外さずに、いかにスリルに満ちたストーリーを構築できるのか、という勝負だと思うのです。

ま、エラソーなこと言ってますが、あんまり数は読んでないんですけどね・・・。
覚えている限りでは、高村薫さんとか、私立探偵フィリップ・マーロウのシリーズ『さらば愛しき人よ』なんかでおなじみの、レイモンド・チャンドラーとか、ダシール・ハメット『マルタの鷹』とか、そんな程度ですが・・・。

しかし、数少ないサンプルの中からも、以下の法則を見出す事はできます(笑)


ハードボイルドの条件。(くどいですが、私の勝手な意見です、念のため)

1.男はカバンなど持ってはいけない。
(常に身軽に。追っ手から逃げるときに、荷物をホイホイ集めたりしてはいけないのです)

2.男は過去にキズを負っていなければならない。
(そのキズのせいで、女性不信になっていればなお可

3.男は生活には困っていないが、かといって金持ちであってはならない。
(金のために仕事をしているように見えたら、ハードボイルドではない)

4.男はどんな美女に言い寄られても、それを歯牙にもかけず、振らなくてはならない。
(美女にデレデレしているのはハードボイルドの風上にもおけません)

5.男は窮地に陥ったとき、命を捨てるかのような大胆な作戦によって、その場を潜り抜けなければならない。
(もっと簡単に抜け出す方法もありそうなのに、敢えて困難を選ぶのです)

う~ん。
ロマン?なのかな(;゜д゜)
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2007/05/22 23:22 | Comments(0) | TrackBack() |

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