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2024/04/26 07:54 |
カラヤンとフルトヴェングラー
ヘルベルト・フォン・カラヤン、この名前は、クラシックを聴かない方でもご存知だと思います。
1908年オーストリア生まれ。第4代ベルリンフィル終身音楽監督として同フィルの黄金時代を築き上げる。レコードに並々ならぬ情熱を傾けた事でも知られる。俗に「帝王」とも。

一方のフルトヴェングラーは、クラシックファンでなければ知らない名前かもしれません。
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、1886年ベルリン生まれ。第3代ベルリンフィル音楽監督。終生作曲にも力を注いでいたが、作曲家としての評価は、指揮者としてのそれとは比べようもない(ほど低い)。「好悪に関係なく、一番偉大だと思う指揮者は誰か?」というアンケートをとった場合、恐らく一位に選ばれるだろうと言われる人物。

この二人は、世界三大オケの一つ、ベルリンフィルの音楽監督であったことのほか、実はもう一つの共通点があります。(ちなみに音楽監督とは、首席指揮者としての待遇に加え、楽団員の人事などにも権限を持つ、指揮者としての最高の地位をいいます。なお、もう一つの有名なオケ、ウィーンフィルは伝統的に音楽監督を置いていませんので、実質上、このベルリンフィル音楽監督が、指揮者としての文字通り最高の地位になります)

第二次大戦中のナチス支配下のドイツにとどまり音楽活動を続け、戦後「非ナチ化審理」を受けていた事です。

とまあ、私も以上の点までは知っていたのですが、それ以上の詳しい内容は知りませんでした。
クラシック関係の本を読んでいると、たまに「フルトヴェングラーの戦争責任」のような表現を見かけることがあるので、具体的にどういうことなのか気になってはいたのですが。

今回、『カラヤンとフルトヴェングラー』(中川右介著・幻冬社新書)を読んで、その辺りの知りたかったことがかなりスッキリしました!

まずこの本の概要を説明しますと、
カラヤンがベルリンフィル音楽監督に就任するまでの20年間の記録。ということになるでしょうか。
で、この20年というのがまさにナチスドイツとピッタリ重なってしまう20年なのです。

ナチス総裁であったヒトラーが、クラシック音楽の熱狂的な愛好者だった事は広く知られています。厳密には「ドイツ音楽」、なかでも「ニーベルングの指輪」などの楽劇で知られる、リヒャルト・ワーグナーが大のお気に入りでした。
ワーグナーワーグナーの息子の妻であったヴィニフレットもまた、ヒトラーを崇拝していたので、ナチスの活動には積極的でした。(当時のワーグナー一族の中で力を持っていたのが、ヴィニフレットでした)。こんな理由があって、イスラエルでは現在もワーグナーの作品は上演されません。

さて、フルトヴェングラーはナチ党員でこそなかったものの、実質的にはナチの広告塔としての役割を果たしていました。
すでに当時、フルトヴェングラーは押しも押されもせぬ名指揮者でしたので、ナチスにとって国家の威容を示す手段であった音楽のために、彼を欠かすことは出来なかったのです。
フルトヴェングラーは、大筋においてはナチスに反感を持っていましたし、個人としてもユダヤ系の音楽家の救済に精力を傾けていた面などがありました。

しかし、ドイツを代表するベルリンフィルの音楽監督であったため、ナチスとの関係は密接にならざるを得ませんでした。(が、これについても、ナチとの関係が嫌だったのなら亡命という手段があったのに、亡命しなかったじゃないか、という糾弾があり、以下の「非ナチ化審理」で余計不利に働いてしまいました。)
戦後、フルトヴェングラーは、ナチスに協力していた疑いのため、「非ナチ化審理」の尋問を受け、ナチに仕えていたことを初め、4つの罪で裁かれる事になりました。「無罪」の判決が出るまで、終戦後2年間、彼は一切の音楽活動を禁じられましたが、このことがフルトヴェングラーの栄光の汚点になっている事は間違いありません。
なお、「非ナチ化」とあるので分かりにくいのですが、この審理は「ナチではなかった」ということを判定するためのものです。

一方のカラヤンは、フルトヴェングラーがベルリンフィルの音楽監督という最高の地位に就いていた時代に、失業者としてベルリンにたどり着きます。
カラヤンはあっという間にスターダムにのし上がったような印象を受けますが、若い頃はかなりの苦労を強いられています。

カラヤンのキャリアアップの足跡を追っていくと、とんでもない分量になってしまいますので流石に省略(汗)

カラヤンは、「出世したかったから」という、単純明快で、ある意味、不純な動機でナチに入党しています。ナチス下のドイツで音楽をするためには、ナチス党員であることが大きくモノをいったためです。
この点で、カラヤンも「非ナチ化審理」で尋問され、戦後しばらく音楽活動が出来なくなってしまうのですが、ナチとしての具体的な活動はしていなかった事に加え、二番目の妻に四分の一ユダヤの血が入っていたことなども幸いし、無罪の判断が下りました。


このカラヤンとフルトヴェングラーの、ドロドロギタギタで権謀術数渦巻く関係が、この本の面白いところなのですが、興味のある方はご一読下さい。
そもそもこの二人は20歳も年が離れているので、普通ならもう少し穏やかな関係が築けそうな感じですが、そうならなかった発端は、フルトヴェングラーの人並み外れた猜疑心の強さに負うところが大きかったようです。

まあ、指揮者って、死ぬまで現役みたいなところがありますから、20年の差はあってないようなものだったのかもしれませんが・・・・・?

この『カラヤンとフルトヴェングラー』は、多くの資料を踏まえた上で、出来事を中心に述べられているので、大変読みやすかったです。(断定できない部分は、その都度きちんと断りが入っています。)
筆者の姿がヘンに現われて来ない所も良し。
(こういうドキュメンタリー系の読み物で、自分の見解をコレでもかッ!と入れまくるタイプ、私はキライです)

両者のどちらかに肩入れしている、ということもないので、カラヤンファンもフルトヴェングラーファンも楽しめます。(ちなみにチェリビダッケファンも、もちろん楽しめます。日本に何人いらっしゃるのか分かりませんが・・・^^;)
また歴史背景がしっかり説明されているので、クラシックを知らない人でも、「分からない」ということはないと思います。と言うか、はっきり言って、この本を読むのに音楽の知識は全く必要ありませんッ!!

でもやっぱり、クラシックに興味のない人が読んでも、面白くないだろうな・・・というのが正直なところです。
せいぜい
「大指揮者ってやっぱりワガママなのね~」とか、

「甘いわね~。音楽バカだから、世の中の事何にも分かってなかったんじゃない?」とか、

「指揮者って変人で子供っぽいと思ってたけど、その通りだったわぁ。あんなこと、普通はいい年したオトナはしないわね」

なんて感想を持たれるくらいかと・・・・・Σ(゜д゜|||)
(もちろん良識のある指揮者だってたくさんいますよ~!!)

あと素朴な疑問なんですが、『のだめカンタービレ』に出てくる巨匠シュトレーゼマン(別名:ミルヒー)って、やっぱりカラヤンが(外見上の)モデルなんですかね???
*原作のコミックに対する疑問であり、ドラマの竹中直人版ミルヒーとは全く関係ありません(笑)
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2007/03/30 02:23 | Comments(1) | TrackBack() |

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コメント

オットー・クレンペラー(1885-1973)という指揮者も人物としては面白いですよ.若い頃,人妻のオペラ歌手(たぶん)と公演後に駆け落ちしたとか,ある人が自宅を訪れたら素っ裸で夢中になって楽譜を読んでいたとか,エピソードに事欠きません.
指揮台からの転落で頭部を強打(48歳),飛行場でころんで大けが(66歳),さらには,寝たばこが原因の火事で大やけど(73歳)するなど,不運な面もありながら,晩年はイギリスのフィルハーモニア管弦楽団とともに名演奏を残した指揮者です.

私がブルックナーの音楽を初めて耳にしたのはクレンペラー指揮の交響曲第4番なのですが(もう20数年前のことかぁ...遠い目.当時はLPだったなぁ.),これはクレンペラーならではの名演で,お勧めできます.これはまだ新品で手に入りますよ.
posted by 石at 2007/03/30 11:48 [ コメントを修正する ]
Re:クレンペラー
こんばんは!
今日は、記事のご指摘をありがとうございました!!
訂正記事をアップしました・・・にゃはは(⊃д⊂)
今回は大丈夫だと思います(汗)

クレンペラーは、メンデルスゾーンの交響曲だけ、聴いた事があります。
ジャケットの写真はパイプを銜えて、なんか偏屈爺さんっぽく写ってますが(笑)、お茶目な方だったんですね~。
寝タバコ火傷事件だけは聞いたことありましたが・・・・。

そうそう、クレンペラーが石様のブルックナーとの出会いだったんですね。
四番というと、「ロマンティック」ですね。
私は、ブルックナーの交響曲の中では、4番が一番可愛くて好きです(笑)
お茶目なクレンペラーにピッタリ!?
(お茶目というには、何回も死に掛けてらっしゃったみたいですが・・・)

私は、「指揮台から落下」ときくと、どうしても山田一雄さんを思い出してしまいます。落ちた後も指揮をしながら舞台に這い上がってきた、というその姿を想像するだけで笑えますΣ(゜д゜|||)
この時の映像は残ってないんですかねぇ・・・・。本当に見たいです(笑)

でも、指揮者が転落しても、オケは演奏を続けるんですね。まあ、曲が止まるよりは止まらない方がいいですけど、落ちても誰も助けてくれないのもかなり切ない・・・。

2007/03/30 21:22

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