さて、ここのところ読書ネタが続いておりますが、今日もやっぱり読書ネタです。
音楽ネタやゲームネタを期待してくださる皆様、申し訳ありません。
しかし何といっても「FF12 RW」をクリアして以来、新しいゲームには手を出していませんし、音楽ネタといっても、「今日のBGMはこの曲でした」くらいしか、今現在特にネタが見つからない状態でして・・・・。
ただ、音楽ネタは週末に新しく一本アップする予定です~(私をよく知る方には、ちょっとびっくりするかもしれないネタでございます(笑))
で、今日の話題は、とうとう書いてしまいます、私の今現在お気に入りのモノ書きさんの一人、先日も名前だけちょこっと出しました、斎藤美奈子氏の著作についてです!
もちろん『超一流主義』だかなんだかのトンデモ本で一世を風靡(!?)した、タイトルのミス・ミ
ナコ・サイトウこと、斎藤澪奈子さん(若くして亡くなられましたね)とは全くの別人ですよ!
それにしても、自分の文章を読み直してみると、書き口というか、雰囲気が斎藤氏に多分な影響を受けていることがよく分かります(笑)
もちろん、巧さも面白さもそして過激さもΣ(゜д゜|||)足元にも及ばないわけですが・・・。
まずこの方の代表作といえばコレ。
『妊娠小説』 (ちくま文庫)
「え!?妊娠小説って何??聞いたこともないけど??」
と思われた方、その通りでございます。
確か小川洋子氏に『妊娠小説』というタイトルの小説があったように記憶していますが(しかも読んだはずですが、例のごとく中身はサッパリ・・・・_| ̄|○)、それについての書評とか、そういったものでは全くありません。
「妊娠小説」とは、この本の中において、「恋愛小説」とか「青春小説」とかと同様、小説の一ジャンルとして、筆者が一群の小説に対して命名したジャンル名です。
筆者の定義によれば、妊娠小説とは「望まない妊娠を登載した小説のことである」とのこと。
さらに、その定義に基づいて、多くのサンプルを、時代や内容、書き手の性別など、様々な角度から分類し、詳細な分析を加えているのが本書です。
さて、近代妊娠小説の始め(つまり、本書で最初に槍玉に上げられた作品ということですが(笑))は、誰もが読んだことのある、森鴎外の『舞姫』。
妊娠小説には「受胎告知」がつき物だそうですが(そりゃそうですよね、「私妊娠したの・・・」というセリフは、間違いなくクライマックスを飾る場面の一つです(笑))、この『舞姫』においては、直接的な「私妊娠したの・・・」に相当するセリフはありません。
「白き木綿、白きレエス」という白い布を強調し、それが「むつき(「おむつ」のこと。原文では漢字です)」であることを豊太郎(主人公です)に気付かせることで、エリスの妊娠を読者に告知しているわけです。
さて豊太郎は、自らの保身・出世の為にエリスを捨てるのですが、エリスは発狂し、「むつき一つを身に付け」た姿にまでなってしまいます。
筆者に拠れば、これは自分が着る筈だったウェディングドレスの白に、白き木綿の「白」が重ねあわされているのであろうとのこと。
そして、この『舞姫』が妊娠小説である所以も、この「むつき」とエリスの発狂にあるというのです。
なぜなら、エリスが妊娠さえしなければ、仮に豊太郎が帰国しても、発狂などということにはならなかっただろうし、豊太郎も帰国の途、手記を書くほどの苦い悔恨にさいなまれることもなかっただろうと考えられるからです。
それどころか、「オレは向こうですごかったんだぜ」くらいの武勇伝にすらなっていたかもしれない、と(笑)。
いやー、『舞姫』の中心プロットが妊娠にあるとはΣ(゜д゜|||)
「妊娠小説」なんて視点に目からウロコ、この人はなんて慧眼なんだ!と思わずにはいられませんでした、ホントに(笑)
他にも、男性の書き手による妊娠小説には、ヒロイン殺しの系統があるとか。
これは、50年代の、妊娠とは(堕胎も含め)肉体的苦痛を伴うものであり、だからろくでもない女はそういう苦痛という罰を受けるのだ、という教育的意味を内包している小説をいう、らしいです。
ここで槍玉に上げられているのは、石原慎太郎『太陽の季節』(笑)。
(私は以前、石原慎太郎大嫌いと書きましたが、斎藤美奈子氏も石原氏をお嫌いなようで、『早く引退してくれればいいのに』ってな旨の発言をしておられました(;゜ロ゜))
70年代になると、女性自身が妊娠を取り入れた小説を書くようになったとか。
これは、若い女性が妊娠という女の秘密を自ら語るところに、世間的には価値があったらしいです。
あるいは、「出会い→初性交→妊娠→中絶→別れ」という、妊娠小説の五大要素が、小説の展開において、それぞれどのあたりに位置しているかを、野球のイニングになぞらえて説明してみるなんて趣向もあったりしますΣ(゜д゜|||)
ちなみに『舞姫』では、三回の表で「出会い」、四回の表で「初性交」(但し間接的描写)、八回の裏で「受胎告知」、九回の表で「エリスの発狂」、九回の裏で「別れ」という展開になっているそうです(笑)
この本、なんせ中身が濃いので、とてもご紹介しきれるものではありません。
ただ切れのいい文体、独特の視点、適度な毒に、緻密な分析と、斎藤氏の著作の特徴がよく現われている一冊ですので、斎藤氏に興味のある方で本のお好きな方は、まずこの一冊から読み始めてみるのもいいかもしれません。
では、本、というかいわゆる文学は特に興味ないし・・・という方にオススメのものはないのか?
というと、うってつけの一冊、いや二冊がございます(笑)
『あほらし屋の鐘が鳴る』
『麗しき男性誌』
以上どちらも文春文庫からの刊行です。
(斎藤美奈子氏の著作の文庫版は、恐らく文春文庫とちくま文庫に集中していると思います。)
前者は今はなき「PINK」および「UNO!」という雑誌に、後者は朝日新聞社発刊の「アエラ」に連載されていたコラムを、それぞれまとめたもの。
前者のうち、後半に収録されている「UNO!」掲載分が、後者と対を成していまして、それぞれ女性雑誌と男性雑誌を面白おかしく分析した内容になっています。
一例を挙げると、「anan」は「センスも頭もいい長女」タイプ、「nonno」は「素直で大人しい次女」タイプ、「JJ」は「出来のいい二人の姉に抑圧されて屈折している三女タイプ」だとか。
雑誌に人格を見るのも面白いですが、それを各雑誌の編集方針や、紙面のレイアウトなどの情報から説得力をもって分析してしまっているのですから、非常に興味深いのです。
しかも、これが斎藤節なのですが、先の「妊娠小説」以上にかなり毒吐きまくってます(笑)
例えば「JJ」についての一節。
「ご存知『読者モデル』。あれってようするに女の子のカタログ化でしょう?で、ここに並んでる子たちがまた、デパートのバーゲンセールで売ってそうな子たちなんだな。一応百貨店だから、もともとの品質や仕入先はそう悪くないはずである。しかし、やっぱり漂うおチープ感」
「たとえば『キャンパス有名人』として登場するKO大学法学部四年のY子さん。司法試験を目指して勉強中という彼女いわく。〈結婚した後でも家で働けて一生できる仕事ですから〉〈でも今は就職活動を控えてて、アナウンサーやマスコミ系にも目がいっちゃう〉〈一番の理想は弁護士になった後に、テレビでコメンテーターをすること。すごくかっこ良さそうで憧れちゃいます〉。ま、人生、どう生きようと勝手だけどよ。どういう理由で『キャンパス有名人』といわれてるのか、考えてみた方がいいぞ」
てな具合で、笑いの(毒の?)ツボ満載です!
一方男性誌についても鋭い(笑える?)分析がてんこ盛り。
「週刊ポスト」を、「一冊の中に同居する知的パパとエロオヤジ」、さらには「援交の場で『ねえ君、親御さんが心配するよ』と女子高生を叱る説教オヤジ」みたいなもんだと言ってみたり、「日経おとなのOFF」の好む表現「愛する人」とは不倫相手のことですよね~、それほど待遇のよくなかった宿については「夫婦向け」というコメントをしているんだから、と突っ込んでみたり、これまた抱腹絶倒のコラム集です。
(「日経おとなのOFF」という雑誌、このコラムが書かれた当時は、斎藤氏に「失楽園系不倫情報専門誌」と言われてしまうほど、不倫色の強い雑誌だったらしいです(笑)。今はそこまで露骨な内容ではないらしく、ちょっと残念(゜▽゜))
これら雑誌の記事についても、先の『妊娠小説』同様、斎藤氏は単なる印象で語ったりせず、何月号にはこんな特集が載っていたとか、このような表現が使われていたとか、あくまでもその雑誌から読み取れることのみを根拠として書いているので、読者としても不快にならず、純粋に楽しめるわけなのです。
感覚だけで書いていたら、ただのイチャモンですもんね。
斎藤美奈子氏は文芸評論家ですので、書評なども多くお書きになっているのですが、やはり斎藤節が随所に見え隠れしていて、そこら辺に転がっている「太鼓持ち」記事とは一線を画しています。
よっぽどの本好きか暇人でなければ、正直、斎藤美奈子氏の著作を手に取られる機会もなかなかないとは思いますが、どこかで「斎藤美奈子」という署名記事を見かけたら、是非とも一読なさってみてください。
大当たりなら「目からウロコ」、そこまで行かなくとも「面白いこと書いてるなあ」くらいの感想を抱かれるんじゃないかなぁ(もちろん好みもありますから誰もがというわけにはいきませんが)と思います。
ということで、今日は珍しく同一人物の著作三作という、斎藤美奈子特集でした(笑)