私が先生の著作を文字通り初めて目にしたのは、まだ小学校低学年の時でした。
家の本棚に仕舞われていた『本陣殺人事件』と書かれた背表紙、母親の本だったのですが、他に並べられていた本の著者が「アガサ・クリスティ」「ヴァン・ダイン」とカタカナばかりであったのに対し、その本だけは「横溝正史」と、明らかに日本人である名前が書かれていたので、とても印象に残っているのです。
しかしその当時は、「よこなんとかせいし?」と、「溝」の読み方すら分からない、まして活字の小さな文庫本など手にするはずもない年頃でしたから、控えめに印刷された『本陣殺人事件』という文字の形だけが、私の脳裏にインプットされていたのでした。
小学校も高学年になると、私は家にある自分の本を繰り返し読むことにも飽きてしまいました。
そんな時、冊数が多すぎて本棚に仕舞う気もなかった為でしょうか、母親が幾つもの紙袋に入れて押入れに放り込んでいた「西村京太郎」氏の著作を発見し、読み漁るようになりました。
一年ほどかけて、何十冊もの西村氏の著作を読破した頃には、私はすっかり推理小説の虜になっていました。
シャーロック・ホームズを読み始めたのも、恐らくこの頃だったと思います。
次に目に入ったのは、昔から背表紙だけは眺め続けていた、そしてテレビなどの影響でしょうか、いつしか彼女が生み出した名探偵であるエルキュール・ポアロやミス・マープルの存在も知るようになっていた「アガサ・クリスティ」の本でした。
『アクロイド殺し』『三幕の殺人』『復讐の女神』『青列車の謎』『鏡は横にひび割れて』、そしていきなりポアロ最後の事件である『カーテン』というラインナップでした。
『アクロイド殺し』と『カーテン』は、代表作・話題作という点でうなずけます。
『カーテン』は、文庫ではなく単行本であったことも鮮明に記憶しています。
恐らく、当時かなり話題になった本なのでしょう。
しかし、それ以外の選択は、なぜ『そして誰もいなくなった』とか『オリエント急行の殺人』とか『ABC殺人事件』といった、有名な代表作ではなかったのか、未だに母親の嗜好が理解できておりません。
母がクリスティの大ファンで、敢えて渋い作品を残していたのかとも考えましたが、『三幕の悲劇』という、出版社が異なるために微妙にタイトルが違っているだけ、つまりは『三幕の殺人』と全く同じ内容の本をもう一冊購入していたことを鑑みると、決してそのようなことではなかったと断言できます。
とまあ、それはさておき、私はこのクリスティの六冊を当然読みました。
『アクロイド殺し』『三幕の殺人』『カーテン』の三作は、記憶の鮮明さの度合いはそれぞれ異なりますが、どこかしらにインパクトを受けたという点で、今でもそれなりに内容を覚えています。
残りの三作は、全く記憶に残っておりませんが、いずれにしても「クリスティは面白い」と印象付けられましたので、この時から数年の後、私はクリスティの著作の大部分を読破することになります。
ですが、当時は本を満足に購入できるほどの小遣いをもらっておりませんでしたので、家にある本を読み漁るしかなく、クリスティが間もなく尽きてしまった時、次に目に入ったのが、横溝先生の『本陣殺人事件』でございました。
私は母に尋ねました。
そうそう、この頃は私も中学一年生でしたから、さすがに先生のお名前の読み方が「よこみぞせいし」である、ということくらいは理解しておりました。
「お母さん、横溝正史ってどんなんなん?」
私はこの時、先生のお作を拝読する気で一杯でした。
しかし母の答えは、
「横溝正史は怖いで~((((゜Д゜;)))) お母さんアレ読んだ時、あまりに怖くて、背中を壁にピッタリくつけてたくらい。夜も怖くて寝れなかったし」
という、中学一年生の少女を、先生の作品から遠ざけるのに十分なものだったのです。
私は母の言葉を真に受けて『本陣殺人事件』を諦め、「ヴァン・ダイン」に手を伸ばすことになりました。
しかし、本屋で先生の著作をお見かけすることはもちろんございましたので、その際、先生の作品の中に『八つ墓村』というものがあることを知ったのです。
さて、これが先生から遠ざかる、第二の要因となってしまいました。
少し話はさかのぼります。
私が小学校2年生の頃、とても仲の良かった友人の家には、ご両親が集めたというマンガが山のようにありました。
しかしご両親のご趣味が、今思えばどうも、怪奇・ホラーマンガに集中していたように思われます。
ビクビクしながらページをめくっていた記憶があるのですが、その中に、どなたの作画かは全く記憶に残っておりませんが、私を心底から怯えさせた一冊がありました。
おどろおどろしい劇画調の絵に、ザンバラ髪の落ち武者の生首、美しい女性の首に刺さった小判、今でも目に浮かぶほどでございます。
そう、そのマンガのタイトルこそが『八つ墓村』でございました。
「あんな怖い話は一生読めないッ!!!」
小学二年生だった私には、『八つ墓村』は本格推理ではなく、怪奇モノであるという印象しか残されず、その印象を引きずっていた中学一年生の私もまた、「横溝正史は怖い」という思い込みに加え、「横溝正史はホラー作家だ」という誤った情報を上書きしてしまうことになってしまったのです。
それから十数年、さすがに先生が本格推理をものされた方だという事実だけは、その間に認識しておりましたが、古今東西、様々なミステリを読破したにも拘わらず、やはり先生の作品にだけは手を伸ばすことができませんでした。
しかし、
「横溝正史を読んでいないのに、ミステリ好きだとは言えないッ」
と、誰に言われたわけでもないのですが、日増しにその思いは強くなり、5年ほど前のことでしたでしょうか、とうとう先生のお作に挑戦してみることにしたのです。
選んだのはもちろん『本陣殺人事件』でございました。
文字通り血飛沫の飛び散る凄惨な事件でしたが、十数年にわたるミステリ漬けの成果だったのでしょうか、悲しいことに、私には母が感じたような恐怖感は全く訪れず、「いつ怖くなるのか・・・・?」と、期待と不安の入り混じった思いでページをめくっているうち、金田一探偵の活躍により、事件は解決してしまったのです。
「・・・・・別に怖くないんですけど(゜▽゜;)」
しかし、この『本陣殺人事件』を読むことによって、横溝先生の作品は、確かに怪奇色や陰惨さなどが目立つけれども、それは飽くまでスパイスであって、実際の解決は合理的推理によるものであるということがハッキリし、私は十数年にわたる呪縛を解き放つことが出来たのです。
以来、先生の作品を拝読するようになりました。
今では、手に入りにくいものもありますので、まだまだ時間がかかりそうですが、いつかは全ての作品を読破したいと考えているくらいのファンです。
それにしても、先生が戦中に疎開されていたからだとは思うのですが、あのような異常な殺人事件が岡山県でばかり発生していたこと、考えるたびに岡山の方々が気の毒でなりません。
あれだけの大量殺人が身近で頻発してしまっては、おちおち夜も眠れなかったことでしょう。
実際は東京で起こった事件による被害者数の方が多いようですが、私の頭の中にはすっかり「岡山=大量殺人」というイメージが出来上がってしまっています。
さてでは、まだ村の掟や因習が色濃く残っていた頃の岡山県を想像しながら、先生の著作を読み返し、またその世界観に浸ってこようと思います。
最後に。
横溝先生、貴方は本当に偉大な方です。
家の本棚に仕舞われていた『本陣殺人事件』と書かれた背表紙、母親の本だったのですが、他に並べられていた本の著者が「アガサ・クリスティ」「ヴァン・ダイン」とカタカナばかりであったのに対し、その本だけは「横溝正史」と、明らかに日本人である名前が書かれていたので、とても印象に残っているのです。
しかしその当時は、「よこなんとかせいし?」と、「溝」の読み方すら分からない、まして活字の小さな文庫本など手にするはずもない年頃でしたから、控えめに印刷された『本陣殺人事件』という文字の形だけが、私の脳裏にインプットされていたのでした。
小学校も高学年になると、私は家にある自分の本を繰り返し読むことにも飽きてしまいました。
そんな時、冊数が多すぎて本棚に仕舞う気もなかった為でしょうか、母親が幾つもの紙袋に入れて押入れに放り込んでいた「西村京太郎」氏の著作を発見し、読み漁るようになりました。
一年ほどかけて、何十冊もの西村氏の著作を読破した頃には、私はすっかり推理小説の虜になっていました。
シャーロック・ホームズを読み始めたのも、恐らくこの頃だったと思います。
次に目に入ったのは、昔から背表紙だけは眺め続けていた、そしてテレビなどの影響でしょうか、いつしか彼女が生み出した名探偵であるエルキュール・ポアロやミス・マープルの存在も知るようになっていた「アガサ・クリスティ」の本でした。
『アクロイド殺し』『三幕の殺人』『復讐の女神』『青列車の謎』『鏡は横にひび割れて』、そしていきなりポアロ最後の事件である『カーテン』というラインナップでした。
『アクロイド殺し』と『カーテン』は、代表作・話題作という点でうなずけます。
『カーテン』は、文庫ではなく単行本であったことも鮮明に記憶しています。
恐らく、当時かなり話題になった本なのでしょう。
しかし、それ以外の選択は、なぜ『そして誰もいなくなった』とか『オリエント急行の殺人』とか『ABC殺人事件』といった、有名な代表作ではなかったのか、未だに母親の嗜好が理解できておりません。
母がクリスティの大ファンで、敢えて渋い作品を残していたのかとも考えましたが、『三幕の悲劇』という、出版社が異なるために微妙にタイトルが違っているだけ、つまりは『三幕の殺人』と全く同じ内容の本をもう一冊購入していたことを鑑みると、決してそのようなことではなかったと断言できます。
とまあ、それはさておき、私はこのクリスティの六冊を当然読みました。
『アクロイド殺し』『三幕の殺人』『カーテン』の三作は、記憶の鮮明さの度合いはそれぞれ異なりますが、どこかしらにインパクトを受けたという点で、今でもそれなりに内容を覚えています。
残りの三作は、全く記憶に残っておりませんが、いずれにしても「クリスティは面白い」と印象付けられましたので、この時から数年の後、私はクリスティの著作の大部分を読破することになります。
ですが、当時は本を満足に購入できるほどの小遣いをもらっておりませんでしたので、家にある本を読み漁るしかなく、クリスティが間もなく尽きてしまった時、次に目に入ったのが、横溝先生の『本陣殺人事件』でございました。
私は母に尋ねました。
そうそう、この頃は私も中学一年生でしたから、さすがに先生のお名前の読み方が「よこみぞせいし」である、ということくらいは理解しておりました。
「お母さん、横溝正史ってどんなんなん?」
私はこの時、先生のお作を拝読する気で一杯でした。
しかし母の答えは、
「横溝正史は怖いで~((((゜Д゜;)))) お母さんアレ読んだ時、あまりに怖くて、背中を壁にピッタリくつけてたくらい。夜も怖くて寝れなかったし」
という、中学一年生の少女を、先生の作品から遠ざけるのに十分なものだったのです。
私は母の言葉を真に受けて『本陣殺人事件』を諦め、「ヴァン・ダイン」に手を伸ばすことになりました。
しかし、本屋で先生の著作をお見かけすることはもちろんございましたので、その際、先生の作品の中に『八つ墓村』というものがあることを知ったのです。
さて、これが先生から遠ざかる、第二の要因となってしまいました。
少し話はさかのぼります。
私が小学校2年生の頃、とても仲の良かった友人の家には、ご両親が集めたというマンガが山のようにありました。
しかしご両親のご趣味が、今思えばどうも、怪奇・ホラーマンガに集中していたように思われます。
ビクビクしながらページをめくっていた記憶があるのですが、その中に、どなたの作画かは全く記憶に残っておりませんが、私を心底から怯えさせた一冊がありました。
おどろおどろしい劇画調の絵に、ザンバラ髪の落ち武者の生首、美しい女性の首に刺さった小判、今でも目に浮かぶほどでございます。
そう、そのマンガのタイトルこそが『八つ墓村』でございました。
「あんな怖い話は一生読めないッ!!!」
小学二年生だった私には、『八つ墓村』は本格推理ではなく、怪奇モノであるという印象しか残されず、その印象を引きずっていた中学一年生の私もまた、「横溝正史は怖い」という思い込みに加え、「横溝正史はホラー作家だ」という誤った情報を上書きしてしまうことになってしまったのです。
それから十数年、さすがに先生が本格推理をものされた方だという事実だけは、その間に認識しておりましたが、古今東西、様々なミステリを読破したにも拘わらず、やはり先生の作品にだけは手を伸ばすことができませんでした。
しかし、
「横溝正史を読んでいないのに、ミステリ好きだとは言えないッ」
と、誰に言われたわけでもないのですが、日増しにその思いは強くなり、5年ほど前のことでしたでしょうか、とうとう先生のお作に挑戦してみることにしたのです。
選んだのはもちろん『本陣殺人事件』でございました。
文字通り血飛沫の飛び散る凄惨な事件でしたが、十数年にわたるミステリ漬けの成果だったのでしょうか、悲しいことに、私には母が感じたような恐怖感は全く訪れず、「いつ怖くなるのか・・・・?」と、期待と不安の入り混じった思いでページをめくっているうち、金田一探偵の活躍により、事件は解決してしまったのです。
「・・・・・別に怖くないんですけど(゜▽゜;)」
しかし、この『本陣殺人事件』を読むことによって、横溝先生の作品は、確かに怪奇色や陰惨さなどが目立つけれども、それは飽くまでスパイスであって、実際の解決は合理的推理によるものであるということがハッキリし、私は十数年にわたる呪縛を解き放つことが出来たのです。
以来、先生の作品を拝読するようになりました。
今では、手に入りにくいものもありますので、まだまだ時間がかかりそうですが、いつかは全ての作品を読破したいと考えているくらいのファンです。
それにしても、先生が戦中に疎開されていたからだとは思うのですが、あのような異常な殺人事件が岡山県でばかり発生していたこと、考えるたびに岡山の方々が気の毒でなりません。
あれだけの大量殺人が身近で頻発してしまっては、おちおち夜も眠れなかったことでしょう。
実際は東京で起こった事件による被害者数の方が多いようですが、私の頭の中にはすっかり「岡山=大量殺人」というイメージが出来上がってしまっています。
さてでは、まだ村の掟や因習が色濃く残っていた頃の岡山県を想像しながら、先生の著作を読み返し、またその世界観に浸ってこようと思います。
最後に。
横溝先生、貴方は本当に偉大な方です。
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