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2024/04/30 00:58 |
神童 2

またまたヘンな時間に更新しています・・・・
どうも睡眠障害っぽいのか、夜中に眠れません。
間違いなく体内時計が狂っているのでしょう・・・_| ̄|○

昨日の続きです。
「神童」と呼ばれた、悲劇のヴァイオリニスト渡辺茂夫さんの話題です。

この方は、以前にテレビでも取り上げられたそうなのですが、残念ながら私はそのような放送があったことすら知りませんでした。

世界最高のヴァイオリニストという地位を目前にして、演奏家人生が絶たれてしまったその無念さは如何ばかりのものだったのでしょうか。
精神状態が不安定になった頃には、徹底した日本嫌いの傾向も見えたとのことですから、慣れない異国での生活、敗戦直後という時代状況、そういったものが折り重なって、渡辺茂夫さんはアイデンティティーの喪失を体験してしまったのかもしれません。

ただ、渡辺茂夫さんは、ハッキリしない精神状態の中でも、ヴァイオリンを愛する心はそのままだったようで、生前最後のお写真は、ヴァイオリンを片手に、透き通るような笑みを浮かべて写っていらっしゃいます。
それがまた、見るものに胸を刺すような切なさを感じさせてなりません。

http://www1.parkcity.ne.jp/fls7/lester/data/pixs/sw.htm

上記のページに渡辺茂夫さんの生前最後に撮られた写真が掲載されています。


私が聴いたCDはその名もズバリ「神童」と題されたアルバムで、渡辺茂夫さんの肉声も収められています。(友人には、この肉声のトラック9は飛ばして聞くように言われていたので、演奏者の正体が分かってから、肉声部分を聞きました)。

肉声部分は、「アメリカからのメッセージ」ということなのですが、徹底した日本嫌いの傾向が見えた、という背景を知ってから聞きましたので、英語なまりの拙い日本語が、余計に胸に迫ってきて、またこれが自殺を図る数ヶ月前の録音だという事実と合わさって、涙が止まりませんでした。

この「神童」という2枚組みのCDは、一枚目に小品が収められ、二枚目には協奏曲が収録されています。
中でも一枚目のトラック13「ノクターン嬰ハ短調」(ショパン)は、ピアノ曲をヴァイオリンにアレンジしたもので、非常に珍しいものだと思うのですが(多分、普通のヴァイオリニストはショパンの曲を演奏しないのではないかと思います)、悲哀に満ち満ちていて、とても10代が演奏しているとは思えません。

恐らく、小品(一枚目)のうち前半に収められているものの方が、演奏年代が古いのではないかと思います。後半の方が熟練しているように聴こえます(前回私が述べた、高音の引っかかりなどは、前半の曲に集中しているので。但し私の勝手な憶測です・・・違っていたら申し訳ありません)。

が、逆に言えば、後半の方が自殺を図ったその時により近い録音という事になりますので、鬼気迫るという印象は、やはり後半の方により感じられてしまいます。

なお、このCDの他、3枚組みのものも発売されていたようなのですが、どちらも入手困難品らしく、現在では中古品を探すしか、入手手段はないようです。
ただ、渡辺茂夫さんは、昭和30~40年代にクラシックを聴いていた方には、非常に知られた存在であったそうなので、これから先、再評価・再発掘が進めば、またメジャーレーベルからの再発売などもあるのかもしれません。

さて今回は、何の知識もないまま、単純に音楽を鑑賞するって言う事が、これほど難しい事だとは・・・ということを思い知らされました。
渡辺茂夫さんの生涯を知った上で聞くと、「鬼気迫る」という印象こそ変わらなかったものの、切なさがダイレクトに響いてきて、正直涙が止まりませんでした。
また、特に後半の曲を聴いていると、「あんまり巧くないよね?」という感想を抱いた自分の耳が、本当に信用できないというか、豆腐の角に頭をぶつけて出直して来たい心境です・・・・_| ̄|○

渡辺茂夫さん、本当に失礼な聴き手で申し訳ありません・・・・懺悔します

ただ、自己弁護するわけではありませんが、音楽は演奏されたものだけが全てなのではなく、やはりその背後にある状況や時代背景、奏者や作曲者の人間性など、あらゆる要素が絡まりあって成立するものなのだと思います。
ですから、渡辺茂夫さんという演奏家を知る前と知ってからの私の感想は、やはり大きく違うものですし、それこそが音楽の醍醐味でもあるのだろうと思いました。

ピアニストのホロヴィッツが、晩年最後の来日公演を行ったとき、有名な音楽評論家である吉田秀和氏は、巨匠の演奏を「ひび割れた骨董品」と表現しました。
当時巨匠は79歳。完璧なまでのテクニックで他を圧倒していたそのスタイルゆえに、老齢による衰えは隠しきれるものではなかったのでしょう。ですから、この吉田氏の論評は客観的に見ても、的を射たものだったのだろうと思います。
しかしもし、ホロヴィッツがこの公演の直後に、あるいは公演中に亡くなってしまっていたとしたら、きっとこの演奏は「命を懸けた演奏」として、ひょっとしたら語り継がれるほどの名演になっていたのかもしれません。

音楽(に限る話ではありませんが)は、そういう意味で、本当に聴き手の心に直結するドラマを含んだ芸術なんだな、と改めて感じる次第です。

最後に。下に引用したのは、朝日新聞に掲載された渡辺茂夫さんの訃報です。なお、この記事中で、私は「自殺を図る」という表現を用いていますが、真相は闇の中であり、ご家族は何者かによる謀殺説を信じていらっしゃったという事実を申し添えておきます。

「神童」バイオリニスト 渡辺茂夫さん死去 1999・8・15 朝日新聞 朝刊記事より
七歳でデビュー、神童と絶賛されながら、米国留学中の事故で長く寝たきりとなっていたバイオリニスト、渡辺茂夫(わたなべ・しげお)氏が、十三日午後十時五十七分、急性呼吸不全のため神奈川県鎌倉市の病院で死去した。五十八歳だった。葬儀・告別式は十六日午前十一時から神奈川県鎌倉市西鎌倉四の七の十一の自宅で。喪主は父季彦(すえひこ)氏。渡辺さんは1948年、七歳で初の演奏会を開き、「天才少年」と脚光を浴びた。来日したバイオリニストのハイフエッツに認められ、55年にニューヨークのジュリアード音学院に留学。最年少で奨学生に選ばれるなど、期待を集めた。しかし57年、睡眠薬を飲み過ぎて意識不明となり、脳に障害が残った。96年には渡辺さんの生涯をたどった伝記、留学前の演奏を集めたCDが発売されるなど、再評価の動きが続いていた。


神童/幻のヴァイオリニスト~渡辺茂夫私が聴いたCDのジャケットです。

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2007/03/27 04:20 | Comments(1) | TrackBack() | 音楽

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コメント

渡辺茂夫氏のことは知りませんでした.天才であるがゆえに,周りの人たちに理解されない苦しみがあったのでしょうね...

天才音楽家には夭折の人が多いですよね(晩成型の天才もたくさんいますが).優秀な作家や学者にも病気や自殺で若くして亡くなる人が多いので,創造的な仕事をする人に共通することなのかもしれませんね.それでも,作品が記録されて残っている人はまだよい方なんでしょうね.まったく忘れ去られている天才もたくさんいるでしょうから...

トーマス・シッパースという指揮者をご存じでしょうか?たしか40代で病死したのですが,もし長生きしていたらもっと有名になったであろうと私が思うアメリカの指揮者です.この人がイタリアのオーケストラを指揮したビゼー(この有名な作曲家も38歳で亡くなっているんですね)の交響曲(なんと17歳で作曲!)は,録音はイマイチなのですが,躍動感といい叙情性といい,まったくすばらしい演奏です.他の(彼よりもっと有名な)指揮者たちの演奏をたくさん聴きましたが,これに優るものはありませんでした.私のお気に入りです.ぜひお勧めしたいところですが,だいぶ前に発売された海賊版のようなCDなので,もう新品では手に入らないでしょう.
posted by 石at 2007/03/28 22:50 [ コメントを修正する ]
Re:無題
こんにちは!
また一人、クラシックファンの方に、渡辺茂夫さんのことを知っていただけて嬉しいです!
最初こそ、とんでもない感想を抱いてしまった私ですが、ツィゴイネルワイゼンの旋律を思い起こす際には、もう渡辺茂夫さんの音色が真っ先に思い浮かぶくらいに、耳慣れたものになりました^^;

トーマス・シッパースさんのことは初めてお聞きしました。指揮者って、全体的に長生きされる印象があるので、40代というのは本当に早世ですね・・・。カルロス・クライバーでさえ、若くしてなくなったという気がするくらいですから・・・(イヤ、本当は70代まで生きてらっしゃいましたが、晩年はまともに活動してなかったですからね^^;)。
石様のお勧め版ということで、是非お聞きしたいのですが、そのようなCDであるのなら、もう入手は不可能に近そうですね。もっと有名な方であれば、海賊版からの再発も十分にありうる事ですが・・・。残念です。

石様がおっしゃるように、天才には、どうしても「夭折」「不遇」といった冠詞が付き物のような気がしてしまいます。もっとその人のことを知りたかった、もっと作品を残して欲しかった、という叶わぬ夢がそうさせるのかもしれないですね。

私は、しつこくて申し訳ありませんが、叶わぬ夢を追いかけたくはないので、アルゲリッチ女史の一日でも早い再来日を、切に希望します(笑)まあ、アルゲリッチ女史は、(失礼ながら仮に亡くなられたとしても)もう早世という年齢ではありませんが・・・
2007/03/29 00:30

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